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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2026.02.18

藻類の新たな光利用の仕組みを解き明かす 光合成タンパク質の機能設計やデザインに画期的な指針

ポイント

  • ◇Chl a※1のみで近赤外光※2を利用する藻類の光合成アンテナ※3rVCPの立体構造と色素配置を、クライオ電子顕微鏡※4により2.4Åの高分解能で解明。
  • ◇rVCP はヘテロ二量体※5が二つ結合し独特な四量体構造を形成し、ヘテロ二量体内に沿った大規模なクロロフィルクラスターを内部に持つことを明らかに。
  • ◇近赤外吸収が電荷移動を含まずエネルギー非局在化のみにより生じることを明らかにし、光合成タンパク質設計や構造デザインの基盤となる知見を示した。

概要

図1:湖に住むこの単細胞藻は、光合成アンテナの中に巨大なクロロフィルの集合体を配置することで、近赤外光を光合成に利用している(イメージ)。伊佐治 由貴、関 荘一郎 作

森林や水圏環境の一部では可視光が乏しく近赤外光が主要となる環境が存在します。そういった環境では、光合成生物が特殊な仕組みで近赤外光を利用しています。真正眼点藻※6の一種であるTrachydiscus minutusは、近赤外光を吸収できる光合成アンテナ複合体rVCPを持ちながら、Chl aだけで近赤外光利用を実現する希少な生物です。しかし、その立体構造が明らかでないため、近赤外光吸収の発現メカニズムは長らく解き明かされていませんでした。

大阪公立大学人工光合成研究センターの藤井 律子准教授、大阪大学蛋白質研究所の関 荘一郎特任研究員(常勤)、栗栖 源嗣教授、同大学大学院生命機能研究科の難波 啓一特任教授(常勤)、チェコ 南ボヘミア大学のTomáš Polívka教授およびRadek Litvín 准教授、イタリア ピサ大学のLorenzo Cupellini准教授らの国際共同研究グループは、クライオ電子顕微鏡法により真正眼点藻 Trachydiscus minutus の光合成アンテナrVCPの立体構造を2.4 Åの高分解能で解明しました。その結果、rVCPがこれまで例のない“ヘテロ二量体2つによる四量体構造”を形成し、内部に大規模なクロロフィルクラスターを持つことが判明しました。さらに量子化学計算※7を組み合わせることで、ヘテロ二量体内の三つのクロロフィルクラスターが近赤外光吸収に特に寄与しており、その機構が電荷移動ではなく、分子間のエネルギー非局在化によって生じることを明らかにしました。本成果により、植物や藻類が近赤外光を利用するユニークな分子機構の理解が大きく前進しました。これらの構造的特徴は、今後の光合成タンパク質の機能設計や構造デザインに重要な基盤となると期待されます。

本研究成果は、2025年12月13日に国際学術誌「Journal of the American Chemistry Society」にオンライン掲載されました。

 

研究者からのコメント

関 荘一郎特任研究員(常勤)

  • 本研究は私が学生の時に共同研究の交渉、マネジメントから実験、論文化まで自身が主導として実施した思い入れのある研究です。そのため本研究がJACSという著名な雑誌に掲載されることを非常に感慨深く感じております。今後の光合成生産量の増幅に貢献できる研究と考えています。

研究の背景

森林や水圏環境の一部では植物や藻類が一般に光合成に使うことが出来ない近赤外光が主要な光環境があります。そういった光環境に生育する光合成生物の中には近赤外の光を特異的に吸収し、効率よく光合成に利用する種がいます。近年、植物や藻類の近赤外光利用を促進することで、地球上の光合成生産量の増加する研究が多数発表されており、光合成生物における近赤外利用が世界的に注目を集めています。
植物や藻類などの光合成生物は光合成アンテナと呼ばれる色素蛋白質複合体を発達させることで、様々な光環境に適応してきました。この複合体に結合する色素にはカロテノイドとクロロフィル(Chl)の二種類があり、特にChlがこの近赤外光吸収を担っています。一部のシアノバクテリアは特殊な分子構造により、色素そのものが近赤外領域に吸収帯を持つChl dやfといった色素を蛋白質に結合することで、特異的に近赤外吸収を可能にしています。一方、それらを持たない植物や藻類は代わりとして、それ自体では近赤外を吸収できないChl aの配置を調節し、複数のChl a分子間の相互作用により近赤外光の利用を可能にしています。

真正眼点藻の一種、Trachydiscus minutusは近赤外光を吸収できる光合成アンテナ (rVCP)を持つことで、特殊な環境に適応しています。rVCPはChlとして、Chl aしか持たず、上記の通り色素の化学構造を変えることなく近赤外光の吸収を可能にしています。しかし、その立体構造が明らかになっておらず、どのように近赤外光の吸収を生み出しているのか、その分子機構はわかっていませんでした。

 

研究の内容

本研究ではクライオ電子顕微鏡法を用いて、rVCPの立体構造や色素配置を高分解能(2.4Å分解能)で決定することに成功しました。その立体構造はこれまでに確認されたことのない“ヘテロ二量体が二つ結合した四量体構造”を形成しており(図2a)、その立体構造の形成によりChl a分子が大きなクラスター(図2b-i)を形成していることを明らかにしました。

加えて、この立体構造を基に量子化学計算を用いてこれらの分子配置からどのように近赤外光の吸収が生み出されるかを調べました。その結果、ヘテロ二量体内の三ヶ所のクロロフィルクラスター(図2b-ii)が特に近赤外光吸収に寄与していることが明らかとなりました。これまでに光合成アンテナとして報告されてきたChl a分子のみによる近赤外光の吸収の分子機構は全て、Chl aクラスター内の電荷移動が鍵となっていましたが、今回の複合体では電荷移動の影響を含めず、クラスター間のエネルギーの非局在化の効果のみによって近赤外光の吸収が生じていることが明らかになりました。

このようにタンパク質の立体構造解析と量子化学計算の組み合わせにより、藻類の近赤外光の吸収機構というユニークな分子機構の解明を大幅に進めることに成功しました。

 

期待される効果・今後の展開

一部の真正眼点藻は油を貯めることが知られており、石油に代わるエネルギー源、もしくはそのサポートとして注目を集めています。中でも今回我々が用いたのは、特に近赤外光を利用できる特殊な種で、その分子メカニズムの解明に成功しました。今後この種を用いて、近赤外光しか届かないような光環境でも効率の良い油脂の生産に貢献できる可能性があります。

また、2024年のノーベル化学賞にもあった通り、タンパク質デザイン分野が近年爆発的な発展を遂げています。今回我々が明らかにした構造は、まず全体構造が非常にユニークなヘテロ二量体型の四量体を形成していたこと、さらに色素配置がタンパク質の配列によって制御されていたことより、今後光合成タンパク質の光応答機能をタンパク質デザインで制御しようという試みへの重要な基盤の一つになると予想されます。

本研究では光合成アンテナタンパク質の構造と機能を明らかにしましたが、この複合体が得た光エネルギーがどこに伝達され、どのように光合成に利用されるかは未解明です。そのため、今後はこの光合成アンテナと光エネルギーを化学エネルギーに変換している光化学系タンパク質複合体の間の相互作用を明らかにすることで、この光合成生物種における近赤外光利用について詳細に解明し、将来的な光合成生産量の増加を目指します。

 

資金情報

本研究は、科学研究費補助金 学術変革A「光合成ユビキティ」(課題番号:23H04958、24H02091)、若手研究(課題番号:25K18413)、特別研究員奨励費 (課題番号:23KJ1834、25KJ0223)、科学技術振興機構 CREST (課題番号:JPMJCR20E1)、生命科学・創薬研究支援基盤事業 (課題番号:JP23ama121001、JP23ama121003)、OP JAK project in Czeck Republik (課題番号:CZ.02.01.01/00/22_008/0004624)、施設支援費 (RVO: 60077344)、日本電子YOKOGUSHI協働研究所の支援を受けて実施しました。

 

用語解説

※1 Chl a: 葉緑素とも呼ばれる緑色の色素で、植物や藻類、シアノバクテリアが光合成を行うために欠かせない物質。有機溶媒中では青色(440 nm付近)と赤色(660 nm付近)に吸収帯を持つ。
※2近赤外光:人間の目には見えない約700 nmより長波長側の光。陸上に生育する光合成生物の多くは光合成に利用することが出来ない。
※3 光合成アンテナ:太陽光を獲得しそのエネルギーを光合成反応中心に伝達する色素と蛋白質の複合体。
※4クライオ電子顕微鏡法:蛋白質等の立体構造を同定する手法。極低温で凍結させたサンプルの電子顕微鏡画像を取得し、その画像の重ね合わせから立体構造を決定できる。
※5 ヘテロ二量体:似て非なる二つの蛋白質が結合することで構成される超分子。
※6 真正眼点藻:不等毛植物の一種で、単細胞の真核性光合成生物の総称。
※7 量子化学計算:量子力学の原理に基づき、分子の機能を計算、予測する手法。

 

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of the American Chemistry Society
【論 文 名】Exciton Delocalization Promotes Far-Red Absorption in a Tetrameric Chlorophyll a Light-Harvesting Complex fromTrachydiscus minutus
【著  者】Soichiro Seki※, Lorenzo Cupellini, David B í na, Elena Betti, Petra Urajová, Hideaki Tanaka, Tomoko Miyata, Keiichi Namba, Genji Kurisu, Tomáš Polívka, Radek Litv í n※, Ritsuko Fujii※ (※責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/jacs.5c17299

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