ACHIEVEMENTS
ACHIEVEMENTS研究成果
ACHIEVEMENTS
プレスリリース
2026.08.06

β2-ミクログロブリンのisoAsp化は、迅速なアミロイド線維を引き起こす。 (https://doi.org/10.1002/anie.7045464、CC-BY-NC-NDライセンスの下で公開)
大阪大学蛋白質研究所の川上隆治さん(研究当時大学院生)、武居俊樹助教、北條裕信教授らの研究グループは、透析アミロイドーシス※1の原因タンパク質であるβ2-ミクログロブリンに生じる非酵素的な翻訳後修飾「isoアスパラギン酸(isoAsp)化※2」が、アミロイド線維形成を強力に促進することを世界で初めて明らかにしました。
腎機能が低下した透析患者では血中にβ2-ミクログロブリン蓄積し、アミロイド線維を形成して組織に沈着し、透析アミロイドーシスを引き起こしますが、正常なβ2-ミクログロブリンがどのように病原性を獲得しアミロイド化するのかは十分に解明されていませんでした。
研究グループは、化学タンパク質合成技術を用いて、タンパク質内で経時的・自発的に発生するisoAsp修飾を特定部位に導入したβ2-ミクログロブリンを作製しました。構造解析の結果、17番目のアスパラギン残基がisoAspへ変換されたタンパク質は、大きく不安定化し、透析アミロイドーシスとの関連が知られている病原性変異体ΔN6※3を上回るアミロイド形成能を示すことを発見しました。
本研究成果は、タンパク質の経時的な構造変化がアミロイド形成の直接的な要因となり得ることを示したものであり、透析アミロイドーシスの病態理解や新たな予防・治療法開発への貢献が期待されます。
本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に、6月8日に公開されました。
β2-ミクログロブリンは主要組織適合遺伝子複合体(MHCクラスI)の構成タンパク質であり、通常は腎臓で速やかに除去されます。しかし、腎機能が低下した患者では血中に蓄積し、長期透析患者では正常値の数十倍に達することがあります。その結果、β2-ミクログロブリンがアミロイド線維を形成して組織に沈着し、透析アミロイドーシスを引き起こします。
これまで、N末端6残基が欠失したΔN6変異体がアミロイド形成を促進することが知られていましたが、患者体内で正常タンパク質が病原性を獲得する初期過程については不明な点が多く残されていました。
一方、タンパク質中のアスパラギン残基は経時的に非酵素的変化を起こし、AspまたはisoAspへ変換されることが知られています。β2-ミクログロブリンでは17番目および42番目のアスパラギン残基が変換を受けやすいことが報告されていましたが、isoAspを含むタンパク質は遺伝子工学的に作製できないため、その影響を直接調べることができませんでした。
研究グループは化学タンパク質合成技術を駆使し、17番目または42番目のアスパラギン残基をAspあるいはisoAspに置換した5種類のβ2-ミクログロブリン変異体を合成しました。
構造解析の結果、17番目の残基がisoAspへ変換されるとタンパク質構造が大きく不安定化することが分かりました。また、アミロイド形成試験では、isoAsp17を含む変異体が極めて高いアミロイド形成能を示し、その速度は病原性変異体ΔN6を上回りました。
さらに、isoAsp17を含む変異体由来のアミロイド線維は正常型β2-ミクログロブリンの線維形成も促進することが分かりました。これらの結果から、Asn17のisoAsp化が試験管内における強力なアミロイド形成要因であることが示されました。
透析アミロイドーシスは長期透析患者の生活の質を著しく低下させる疾患であり、その病態形成メカニズムの解明は重要な課題となっています。
本研究は、タンパク質の非酵素的修飾そのものがアミロイド形成を引き起こすことを直接示した初めての例の一つです。今後は、isoAsp形成を抑制する治療法や、isoAspを指標とした早期診断技術の開発につながる可能性があります。
また、本研究で用いた化学タンパク質合成技術は、疾患に関連するさまざまな翻訳後修飾タンパク質の解析にも応用でき、神経変性疾患をはじめとするアミロイド関連疾患の研究進展にも貢献すると期待されます。
本研究成果は、6月8日にドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Post-Translational Isoaspartate Promotes Amyloid Formation in β2-Microglobulin
著者:Ryuji Kawakami, Toshiki Takei, Masatomo So, Toshifumi Takao, Yoshinori Taguchi and Hironobu Hojo
DOI:10.1002/anie.7045464
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI Grant Number JP24K17788, JP25K00268, JP23K23464)の一環として行われ、大阪大学蛋白質研究所 高尾敏文特任教授、京都大学 大学院農学研究科 宗正智助教の協力を得て行われました。
※1透析アミロイドーシス
長期透析患者においてβ2-ミクログロブリンが体内に蓄積し、関節や骨などにアミロイドが沈着することで発症する難治性疾患。
※2isoアスパラギン酸(isoAsp)化
アスパラギン残基の側鎖カルボニル基が隣接するC末側アミノ酸残基の主鎖アミド窒素による求核攻撃を受け、スクシンイミド中間体を形成する。その後、この中間体が加水分解されることでペプチド結合の位置が側鎖側へ移り、イソアスパラギン酸(isoAsp)が生成される現象である(次頁の図参照)。加水分解の際にアスパラギン残基の側鎖アミド基はカルボキシ基へ変換されるため、アスパラギン残基はAspまたはisoAsp残基へと変換される。

※3病原性変異体ΔN6
透析アミロイドーシス患者のアミロイド沈着物から見出されるβ2-ミクログロブリン(β2m)のN末端6残基欠失体である。通常型β2mよりも高いアミロイド形成能を示し、病態形成への関与が示唆されている。